ト ッ プ アバウト 七 宝 焼 和 服 合 唱 モーちゃん コンタクト ENGLISH

  事の発端

   伝統七宝工芸作家の 九鬼英子先生 の立体制作マニュアルを英訳させて頂いて、ムラムラと立体熱が湧き上がった私はこの夏、無謀にも立体集中講座(しかも飛び込み)を申し込んでみたのです。するとどうぞいらっしゃいと太っ腹なお返事。その上なんと会ったこともなくネット上でしか知らない私をおうちに泊めていただけるとのこと。感謝感激で勇んで立体制作合宿に向かうこととなったのですが・・・。実は私、適度な人見知りの上に無類の出不精・・・。おまけに暑いのが大の苦手。前途多難なかほり・・・。案の定、当初一泊二日の心積もりが、終わってみたらなんと三泊四日・・・(汗)。更にこれだけかかって仕上がったのは小さめの香合ひとつだけ・・・。とろいぞ、私。要領悪いぞ、私。しかも余りの暑さからか過密(自己比)スケジュールからか、あちこち記憶が飛んでいる・・・。
   てなわけなのでここではのんびりと後味を噛み締めながら、この「怒涛の正味三日間2004」の記憶を手繰っていきたいと思っています。

  第一日目 植線酒盛り植線

   某JR駅に降り立った私はその余りの暑さにめまいがした。駅舎の外にある公衆電話まで行くのに火の中に飛び込むくらいの勇気が必要だったほど。今日ってこんなに暑かったっけ?イヤイヤそれより電話電話、などとブツブツ独り言を言いながら先生に連絡。それからタクシーに飛び乗って、言われていた通りの行き先を告げると、「山越えで良いですか?」と聞かれる。や、山越え・・・?(汗)私は一体どこに連れていかれるの・・・?「はあ、何もわからないのでお任せします。」「はい、わかりました。それにしても暑いですねえ。今日も40度いくそうですよ。」・・・って、はいぃ~っ!?今40度って言った?40度って言った?40度っつったら熱ーーいお風呂の温度でないですか?!信じられないようなその気温と、先生に初めてお会いする&よそにお泊りする緊張感とで、「ああぁ~~、家でじっとしてりゃよかった・・・。」と泣きそうになる私。それでも立体制作に関してはやる気満々。どこでもドアがこれほど欲しいと思った瞬間はない・・・。そんな私をよそに無情にどんどん山間へ入って行くタクシー。山の斜面にはチラホラと何かの林が見えてくる。お茶所なのは知ってるけどお茶にしては大きいなあ。何の木だろう。それにしてもまだ着かないのかなあ。タクシーの効かないクーラーを恨みつつ2000円分ほども進んだ頃、「駐車場に入れていいですかね?」と聞かれる。あ、ここかー。着いたのね、ついに。するとそこに、駐車場へ乗り入れるタクシーを先導するかのように、足早に車と並走するスレンダーなおねーさん。アレ?おねーさんか?首にタオル巻いてるぞ。なんとその首にタオル巻いたスレンダーなおねーさん風うしろ姿の女性が九鬼先生でした!。ちぃーさーい!ほそーい!九鬼先生に関しては体格と実績が反比例してるなと実感してしまった。
   「▼○□★!?」「◎◆△□!!」緊張の余り最初にお互い何と言葉を交わしたのか全く覚えていない。小回りの利きそうな先生のパジェロに乗り換えてもう少し行くと、そこがこれからご厄介になる道場。いや、先生のおうち。タイミング良く宅配便のおにぃちゃんがドアの前に佇んでいる。あ、私の送ったます寿司か?指定時間ギリギリだな。今夜の晩御飯だ(ぉぃ)。どやどやとおうちに上げていただいて今更ながらの自己紹介をしつつホッと一息。あああぁ、歳はとりたくないね。なんと私のそこからの記憶は七宝作ってるか(階段昇降含む)、食べてるかのどっちか・・・。まるで0と1だけのでじたる~な世界。もしくは突然ビデオカードのドライバが逝っちまったみたいに脳内画像がいきなり不鮮明。持参したデジタルカメラも作るのに忙しくてほとんど出番なし。確かお昼ご馳走になってからソッコーで下絵つけ・植線と教わったと思う。その間に先生のお弟子さんで、ご自身でも教室を持っておられる同じく七宝作家の 前田裕子さん がお見えになり、ミーハーの私はこっそりエキサイト。なんたって九鬼先生も前田さんもプロの七宝作家。パンフレットとかネットとかでしか見たことのなかった作家の作品を直に見てるんだから。はたから見るとわかりづらいらしいが、私的には相当舞い上がっていたのである。記憶も飛んで当たり前なんである。「かしゃさん」と呼ばれてもことごとく聞き流しちゃうのである。
   先生や生徒の皆さんの体験談などを聞きながら午後一杯植線。元々人とは逆の時間帯で生息している私なので、人様の生活サイクルがわからず、言われるがままなされるがままに行動。変な奴だと思われたに違いない。植線を無理矢理一段落させて、お待ちかね(違)、先生と前田さんと晩御飯兼酒盛り(ぉ)。先生手作りのポークの紅茶煮サイコー。立体制作のメモの横にレシピ書いてみたり。それと酒のつまみにいただいたカラスミ、んめー。ほとんど一人で平らげる。ご馳走様でしたぁ、甚五郎さん。  ( 地ビール食い散らかしたあと
   宴のあと再び植線(とほ)。全面に植線する訳でもないのにやたらと時間がかかってイライラする。しっかり立て!コノーッ。

  第二日目 ひたすら色差し

   私と共に一泊された前田さんはお昼前にお帰りなるとのことで、それじゃーその前にってんで記念撮影。何やら一番態度のデカそうなゴツい女が私である。前田さんありがとうございましたあ。( 前田さんと三人で揃って
   作業についてはこの日が最も記憶のあいまいな日である。ひたすらひたすら色差しをしていた。・・・ハズ・・・。むーーん、思い出せない。乾くの待ってる間に二個目の香合の下地作りをしたかもしれない。あ、そうだ、したした。デジカメ使うヒマがあったということは、いろいろチマチマやってたというわけか。( 保温器の上で予熱中実は初めて見たフノリ
   今となってはあのスケジュールで香合を二個仕上げるというのはとても無理とわかるが、初めは二個仕上げるつもりでいたのである。知らないというのはおそろしいものだ。それでも待ち時間の間に二個目の下地作りまで終わらせたのでたいしたもんではないか。(って自分で言うな。)やっぱり立体の色差しは平面と違って難しい。布で押さえながらじゃないとあとからあとからダバダバ垂れる垂れる。この大きさでこの有様ということは、棗なんかとんでもないって感じである。何とかコツを覚えねばヘタすると施釉が立体の鬼門になりそうだ。
   夕食後、中学生が三名やってきて先生から数学を教わっていたようだ。ほんとに何でも出来るなあ、この先生は。茶碗を洗いながらモントリオールとここの中学生の違いを探ってみたり。寝る前にはすっかり施釉が済んでちょっと安心して就寝。あとは最終焼成と研磨を残すのみ。やはり二泊三日は必要だったななどと思っていたら・・・。

  第三日目 嗚呼悲しみの研磨

   クマゼミの大合唱で目が覚めると先生の姿が見当たらない。あれれと思って下に降りるとなんと先生、パジャマのまんまで電気炉の調整中。わしゃしゃーっ申し訳ないっ!(汗)すぐ焼けるように準備をしてくださっていたようだ。焼ければあとは研磨だけとタカを括っていた私だったが、このあととんでもない大ドンデン返しが待ち受けていたのである。冷えるのを待って研磨を始めた私は実のところ、先生の教室のようにちゃんとした環境下で正しく使用すれば、家から持参していたあのトラブルメーカーのダイヤモンド砥石もおとなしく言うことを聞くかもしれないと期待していたのである。ところがすっとこどっこい(ふるっ)、何時間かけてもきれいに研げず、あまつさえ例の黒いシミまで出てくる始末。昼からの教室に東京からわざわざ習いに来ておられるKさんとTさんも(この日は偶然お二人の月に一度のお稽古日でした。)、研磨の体験談と共に「研磨を片付けて夕方一緒に東京に帰りましょう。」と温かい言葉をかけてくださる。ううう、私もこれ以上延ばせないよう、一緒に帰りたいようと、心の中で地団駄踏みながら必死に研いだのだが、事態は一向に良くならない。結局お二人の帰る時間になっても埒があかず、居残り決定の私はさよほならぁ~・・・、としょんぼりお見送り。
   その後、さすがにこれはおかしいと思った先生がご自分の百戦錬磨砥石と私のやさぐれ砥石とを比べてごらんになると・・・。あらこれじゃ研げなくても不思議じゃなくてよ、ひろみ。さーわあぁ~ってごらんん~~・・・。夕陽に向かってバカヤローーッ(エコー)。私の今日一日の労働は一体・・・?艶消しになろうと頑張ったのに最後の最後に火艶にされてしまったアクセサリー達のやり場のない怒りは・・・?・・・プチンと音がして頭が真っ白になった私。そうかそうだったのか。最初からこいつらおかしかったんだ。道理でうまくいかないはずだよ・・・。
   こうなってはどうしようもないので先生の砥石をお借りして研いでみることに。そしたらこれがまた憎たらしいくらいシュッシュッと小気味良く研げる。なんだかよけい悲しくなった私である。いや、快調に研ぎ艶に近づいていくのはこの上なくエキサイティングなのだが、それが気持ち良ければ気持ち良いほどあのぼんくら砥石が恨めしくなるのである。悔しいから先生のおうちに無理矢理置き土産の刑(ぉ)。
   そんなドタバタはあったものの、研ぎ艶の出た時のあの感動は最高であった。何がどうなって研いで艶が出るのか未だにわからないが、あの艶・光沢はそれまでの苦労を忘れさせてくれるものである。魔法の赤い粉の力を借りたとはいえ、正しい道具さえあればあの艶が自分にも出せるのだと思うと感無量である。その晩は今度こその快眠。

  第四日目 ロウ引き

   しゅっと起きてしゅっと蝋引きを済ませて四日目にしてまさかの完成。蝋引き自体は何の問題もなく、あとは家に帰って覆輪つけるだけ♪(まだ糊付けしてないけど・・・。)
   本当にこの四日間、でかい図体の女が居候してさぞかし居心地悪いことだったと思います。お布団もお風呂もご飯も何から何まで面倒見てくださった九鬼先生、本当にありがとうございました。また、前田さん他応援してくださった皆様、ありがとうございました。あの香合はカナダに持って戻ってからも舐めるようにかわいがっております。それではいろいろな光線で撮った香合第壱号の愛くるしい画像を一挙公開。 (あそれ ポチッ とな。)
   一生の思い出に残る夏でございました。いろんな意味で・・・(汗)。